巡回していた守衛さんに見つかり、私たちは慌てて東別館を出た。先輩と並んで最寄り駅を目指す。空には十三日の月が浮かんでいて、足元には街灯のものとは別の方向に伸びる影があった。
「一体、どうなっているんですか」
私の声は、静かに興奮していた。私は確かに空間移動を体験した。先輩は曖昧な相槌をした。何か考えているようだった。
「明日話すよ」
「メールして下さい」
「これからアルバイトなんだ。メールできるようになるのは日付が変わってからだけど」
日付が変わってから、か。私は、明日は一限から授業がある。おそらく日付が変わる頃には夢の中だ。
「それじゃあ、明日の何時頃が空いているんですか」
「今日と同じ頃なら平気だよ。五限が終わった後、また学生ホールで」
わかりました、と返答する。
「どうなっているのか、あれこれ想像するのは結構だ。でも」
「口外禁止、ですね」
先輩はしっかりと頷いた。鞄の中から手帳を取り出し、メモ書きを抜いて私に渡した。
「基地は一つの建物に一つずつ。これがその一覧だ。方法はさっき言った通り」
「ありがとうございます」
「くれぐれも、口外しないように」
先輩は再度警告し、手帳を鞄に仕舞った。私も手帳を開いてメモを挟み、鞄に入れる。そのまま定期入れを手に取った。大学は、駅から徒歩一分という便利さを受験生へのアピールとしている。在学生である私たちもその恩恵を享受しているが、誰かと話しながら帰る時にはすぐ別れの場所に着いてしまう。改札を通り、ホームへ行く。池袋・上野方面行きの電車が到着していて、先輩はおざなりな挨拶を残し、とても混雑しているその車両に飛び乗った。



