蝉は七年地中に居り、地上に出るとその殻を捨て、七日間鳴き続けて命を繋ぐべき者を見つけ、空へ飛び立つ。

「空というのは、帰る場所かもしれない」
 彼女の襟足を過ぎた風が、僕の鼻を擽る。
「あら、ロマンティックなことを言うのね」
「君には及ばないよ」
 出会った頃から変わらなかった長い髪が、ばっさりと切られた。もう一ヶ月は経つが、まだ見慣れない。

「だとしたら、明日から私たちは空に住むの?」
「そうだね」
 気づけば七年もしがみついていた住まいを発ち、僕らは僕の実家へ住所を移す。母は彼女の体調を考慮し、もっと早く越すことを勧めていたが、様々な理由から伸び伸びになっていた。
 幾つかの家具は処分し、幾つかの家具は実家へ運んだ。あとは細々したものを持って行けば良い。片付いた所で、昼食がてら、散歩に行こうと彼女が言うので、二人して夏の街を歩いた。食事を終え、公園でたたずむ。日傘を畳み、木陰のベンチに座った彼女は、もう何度その横顔を見ただろうか、よく晴れた空を見上げた。