どうやら、そのまま眠ってしまったらしい。日は西に傾き、かなかなと蜩が鳴いている。

「起きた?」
 薄暗い部屋の中に、貴ちゃんがいた。黒のスラックス、白いワイシャツ、黒いネクタイ。
「何してんのよ」
 私は目をこすり、視線をそらす。貴ちゃんは幼なじみで、気の置けない友だちだけど、今日は会いたくなかった。だって。

「こんなところで油売ってたら、憬子が寂しがるよ」