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 僕の部屋に着くまでに、璋子さんは静かに寝息を立てている。僕は静かに車を降り、急いで着替えて戻った。

 再びエンジンを掛け、走り出して高速に乗る。ふと気づくと璋子さんは目を覚ましていて、魔法瓶を開けてコップに温かいコーヒーを注いでくれた。

「運転、代わってくれるんじゃなかったんですか」
 連休初日の未明。まだ首都高は空いている。
「きー君の横顔が格好いいな、と思って」
 前方不注意の過失致傷。璋子さんは冗談ともつかないことを呟いた。



 海まであと一時間だろう。日の出には間に合うだろうが、既に空は白み初めているので気が急る。璋子さんは時折ワンピースのプリーツを気にしている。

「良平」
 ぽつり、僕の名前を呼んだ。璋子さんが僕を名前で呼ぶのは体を重ねる時だけで、少し戸惑った。
「……はい」
「家族の話をしてよ」


 願わくば、先ほど想像した未来が実現しますように。
 僕は朝日へ向けて車を走らせる。



(了)