璋子さんは赤い顔を更に赤くして、奥へ行ってしまう。
「これ、どうしたの?」
 と、わざとらしく声を上げる。全く、可愛い人だ。

 奥のキッチンには、僕が作った天ぷらが置いてあった。
「タラの芽に、ぜんまい、筍」
 ひとつひとつ、指差していく。
「実家から送って来たんです。璋子さん、今日は食べて来るってこと忘れていました」

 璋子さんは筍の天ぷらを摘み、口へ運ぶ。
「冷めてるでしょう?」
「でもおいしい」
 そう言って、噛みながら食器棚からグラスを二つ取り出し、箸もニ膳用意した。
「良いお酒もあるし、付き合いなさい。紀井君」

 断る理由など、僕は持たない。