コウはゆっくりと頷きました。わたくしはそれでやっとほっとしました。千吉が何も言わずにコウと契ったならば、わたくしは一生千吉を恨んだでしょう。
「ありがとう、コウ」
 コウはふるふると首を横に振ります。あるいは、コウは昔から千吉を好いていたのかもしれません。

「千吉はわたくしのことを良くわかっています。故意にわたくしを怒らせ、千吉を嫌うようにした」
 わたくしを夢から目覚めさせ、見るべき現を指し示したのです。
「だから、千吉にありがとうと伝えて」
 わたくしはコウに笑いかけました。すると何故か、涙が溢れてくるのがわかりました。
「コウも、良い子を産むのですよ」

 コウがしっかりと頷くのを見ると、わたくしは立ち上がり部屋へ入りました。障子を後ろ手に閉めて、それから息を殺して泣きました。
 気がつくと朝になっていました。廊下に、わたくしの打掛がきちんと畳まれて置いてありました。


 そして、わたくしは隣国へ嫁ぎました。夫は優しく、わたくしたちは三人の子どもを授かりました。その後の千吉とコウの消息は耳にしていません。


おわり