いつれのおほんときにかにやうこかういあまたさふらひたまひけるなかに

 光の君のような殿方を望みはしません。姿かたちの良さに教養の高さ、そんなことを望みはしません。ただ、わたくしが思う方に思われたいのです。

「それでは、俺が余程みにくい者のように聞こえます」
 千吉が困った顔をします。わたくしは慌てて首を横に振りました。
「違うの、わたくしは」
 その先の言葉に詰まっていると、千吉はくっくと喉で笑いました。穏やかな口元で、わたくしの髪を撫でました。

「姫様」
 わたくしはそのまま、千吉の胸に体の重さを預けます。土や藁、汗に太陽、そんなものが入り混じった匂い。百檀でも麝香でもなくて良いのです。深くわたくしを包み込み、大きな安らぎを与えます。
「ずっとこうしていたい」
 千吉の温かさの中でわたくしは穏やかな夢を見るのです。今日のようにうららかな春の日のような夢を。