先輩は何も言わず、私の涙が引き、落ち着くのをじっと待っていた。別れ際、先輩は手にしていた本を私に渡した。
「最近の人間が考える五十年先の未来は、昔とは随分違う。大して変わらない未来だな」
 それは私が先輩に初めて会った時に読んでいた本だった。今より少し未来の日本を舞台に、インターネットの検索機能を鍵とするミステリー小説。
その「未来」という言葉は、先輩にとってどんな意味を持っているのだろう。それを聞きたくて振り返ったけれど、そこにもう先輩の姿はなかった。本には確かに先輩の温もりが残っていた。
先輩。貴方はどこから来て、どこへ行くのですか。