学徒出陣で露と消えた一つの命。科学者になりたいという夢を諦めきれずに漂った魂は、焼失した母校に戻る。次々と校舎が建てられていく様子を眺めながら、夢を見られる平和の中で勉学に勤しむ学生が、移動を煩わしく思って口にした愚痴でも聞いたに違いない。
「そして科学者を目指していた貴方は、かつての自分が考えたことを思い出し、学生を選別し、非科学的な手段を用いて空間移動を行った。その手段となったのは、霊力、とでも言えば良いのですか」
 私は、自分の憶測が導いた結論を口にする。
「NISHI2-407なんて存在しない。いえ、貴方自体がNISHI2-407なんです」
話しながらも、まさかまさかと自問自答し続ける。こんなことは小説の中の出来事でしかなかった。が、私はそんな非科学的な現象を疑わず、甘んじ、使用し、大いに活用し、この数カ月を過ごしていたのである。
「先輩」
 何か言おうと思ったが、その前に先輩は口を開く。私の発言を、眉の下がった、全く楽しそうではない笑顔で制す。
「気にするな。今、NISHI2-407を知っている奴が全員卒業するまでは面倒を見る」
 全員って何人ですか。それは何年後ですか。その後、先輩はどこへ。
 聞きたいことは喉元まで来て、嗚咽に変わる。どこまでが本当のことなのか、もう分からなかった。先輩は私の推論はどこまで合っているのか。小学生の頃の話は、自分自身が体験したことなのか。長い間学生に騙り続けてきた嘘なのか。先輩の言葉は、私だけが非現実を体験していたのではない、と私に納得させるための言葉なのか。何を信じたら良いのだろう。本当のことを知って良いのだろうか。先輩を疑って良いのだろうか。
 先輩は私の考えを読み取れる。けれども生身の人間の私に、そんなことはできない。私の考えがわかるのなら、むしろ教えてほしかった。この涙の理由は何なのか。私が先輩へ抱いている感情は何なのか。