「先回りしてますね」

 ヤイクは、忌々しそうにそれを口にした。

 テルも、それには同意だった。

 行く道行く道、彼らの歩みを遅くし、なおかつ疲労困憊させる敵が現れるのだ。

 これは、彼らの情報が既に流れていて、先回りされているに他ならない。

 かなり情報が早い。

 これほど、整然と邪魔をし続けられるのだから。

「飛脚が裏目に出たんですよ」

 ヤイクは、本当に頭の回転が速い男だ。

 この元凶を、きちんと見抜いていた。

 なるほど。

 飛脚は、人の情報を平等に運ぶ。

 彼らと敵対する勢力も、それを利用しているというわけか。

 そう考えると、テルはおかしくてしょうがなかった。

「何か…おかしな点でも?」

 ビッテが、そんな笑みに怪訝な声を向ける。

「太陽を憎んでいながらも、太陽のまつりごとに組み込まれているものから、彼らも逃れられないのだな」

 飛脚は、確かに民間のものだ。

 しかし、許可を出したのは、イデアメリトスである。

 父は、飛脚の初荷の時に、各神殿への書状を持たせたという。

 その四つの荷は、確実にそれぞれの神殿に届いた。

 書状には、したためられた日付も記されていて、神殿の人間はその速さに驚いた。

 大きい町へは、荷馬車が。

 小さな町へは、行商人などが足で運んでいる。

 その素晴らしさは、たとえ月側の人間であっても、利用したくなるほどのものだったというわけだ。

「本当に傑作だ」

 この国が素晴らしければ素晴らしいほど、彼らには付け入る隙などない。

 警備が手薄な成人の旅路で命を狙うので、精いっぱいという情けなさである。

「次々片づけてもらうぞ、ビッテ。ここで奴らを掃除をしておけば、ハレは居眠りしてても神殿にたどり着ける」

 敵は、自分の前にいればいい。

 旅の一番手を自分が手に入れたことを、本当に幸運だと思ったのだ。

 だが、テルは──『それ』に出会ってしまった。