アリスズc


「まったく、月なんてロクなもんじゃないですな」

 ヤイクは、辟易した声をあげた。

 テルは、それに一部だけ同意することにした。

 月という表現でいっしょくたに混ぜているが、彼が言っているのは、月側の勢力のことだ。

 旅に出る前から、一番憂慮する相手であることは分かっていたが、実際に対面したことで、都がいかに恵まれた場所であったかを理解できた。

 テルは、剣術の訓練に宮殿を出ていたが、月の人間に命を狙われたことはなかったのだ。

 勿論、一人で町を歩いているわけではないが、それでも相手が本気ならば、どんなところからでもテルの命を狙えたはずだ。

 それが、この18年間起きていないということは、単純に不可能だった、ということである。

 都内の警備や情報が、しっかりと機能しているおかげだろう。

 二度、これまで戦うこととなった。

 二度とも、同じような状況から戦闘になだれこんだのだ。

 彼らは、誰かを探している。

 その確認のために、テルのフードを取ろうとしたのだ。

 取ってびっくり──イデアメリトス。

 向こうも、さぞや驚いたことだろう。

「誰だか分かりませんが、さっさと捕まるといいですな」

 ヤイクは、探し人のとばっちりを受けている事実に天を仰ぐ。

 彼の考えたフード作戦そのものは、間違っていないはずなのに、余計な動きが混じったせいで、危険にさらされているからだろう。

 せっかく髪まで切ったというのに。

 そう、思っているのかもしれない。

「彼らを倒したことにより、余計に追っ手が増えるかもしれませんね」

 ビッテが、自分の腰の剣に視線を落としながら、小さく呟く。

 まったくその通りだ。

 人探しに行った者たちが戻らない。

 彼らを探しに行ってみれば、刀傷でみな死んでいるのだ。

 そこからは、想像すれば分かるではないか。

 武器を持った人間に、全員の命を賭けてまで戦う相手とは誰か、と。

 これから、ますます道のりが険しくなりそうだ。

 それと同時に、テルは思った。

 その災難は、きっとハレも被ることになるだろう、と。