アリスズc

 町をゆけば、心をくすぐる文具店や、おいしそうな食堂に、こじんまりした市場もある。

 勿論、飛脚問屋もちゃんとあった。

 だが、一般の学生にはほとんどお金がない。

 肩を落とす彼らは、次に広場の掲示板に目を止めるだろう。

 日雇いの労働者の募集だ。

 町は、まだ拡張を続けている最中で、人手が足りないのだ。

 ただし、学生は月に働ける日数には限りがあり、それを越えることは許されない。

 それでも、自分のための文房具を買うことや、ささやかな贅沢を夢見ることは出来る。

 少し明るい気持ちになったところで、ふと空を見上げると、木剣を打ち合う音が、どこからか聞こえてくるかもしれない。

 大通りから、二本違う辻に入るとそれはある。

 石作りの多い建物の中、暑さに強い建材で作られた、不思議な建物。

 中を除くと、とても背の高い男が弟子らしき男と剣を打ち合っている。

 剣術道場だ。

 見た事のない不思議な衣装をつけ、ひたむきに稽古をしているその姿は、勉学を極めるために来た若者の心を、惹きつけることもあるだろう。

 剣を打ち合う音以外に、聞こえてくるものがあるとすれば。

 それは、歌に違いない。

 何故か、歌声は路地をいくつも越えた先から聞こえてくる。

 それらを乗り越えて追いかけて行くと。

 そこには。

 小さな神殿があるのだ。

 歌は、その中から聞こえてくる。

 扉を開ければ、奥に白い髪の人間がいるかもしれない。

 それは、男のこともあれば、女のこともある。

 運が悪ければ、どちらもいないこともある。

 その時は、他の神官たちの静かな歌声が流れているだろう。

 今日は、とても運がよかったようだ。

 白い髪の男も女も──両方揃っていたのだから。