アリスズc


 トーおじさまのことは。

 桃は、複雑だった。

 これまで、トーのことを恋愛対象として見たことはなかった。

 深い深い彼の愛の中に浸かっていた彼女は、その水の中に恋が混じっていることにまったく気付かなかったのだ。

 ないと思っていたものが、突然あると言われても、桃はどうしたらいいのか分からない。

 決して嫌いになれない相手からの、優しい恋の告白。

 急いでいる気配は、微塵もなかった。

 ただ、一度。

 ただ一度だけ、彼女に伝えたいという思いの詰まった歌。

 旅支度をしながら、桃はため息をついた。

 年を取らないトー。

 歌い、跳び、旅をする男。

 そんな男と、一緒に歩いて行く道があるだろうか。

 桃の頭の中で、泡のように何度も生まれては弾ける心。

 頼って、しまうだろうなあ。

 旅のマントを目の前で広げながら、意識はあらぬことを考える。

 トーは、大きいから。

 とてもとても大きいから。

 桃を甘やかしてもなお、広い彼の心にくっついて、頼りきってしまいそうな自分が容易に想像出来た。

 うっすらと、自分の行く道は見えてきた。

 その道を、己の意思で歩いて行くのだと。

 最後にいつも必要なのは──覚悟なのだ。

 多くの道がある中で、自分の道を選び取り極める覚悟。

 旅立ちの前に。

 桃は、それを固める必要があった。

 そうでなければ、すぐにささやかな風で揺らいでしまう気がした。

 彼女は、支度の途中で立ち上がり。

 部屋を出た。

 会うべき人がいたのだ。