アリスズc


 ヒセは、既に別室へと追いやられた。

 そんな、オリフレアの部屋。

 テルは出来るだけ、妻と夜を過ごすようにしていた。

 ベッドに横たわる彼女のおなかは、微かな光を放っている。

 その光が、オリフレアに宿った時から、テルはこうして側に寄り添っているようにしたのだ。

 そう遠くなく起きるであろう話を、彼女と少しずつしていくために。

 オリフレアは、少し時間はかかったが、何とか事実は受け入れてくれた。

 彼女のおなかは、『微かに』しか光っていないのだ。

 考えられることは、二つ。

 ひとつは、とても命の力が弱い子で、無事生むところまでいけるかどうか分からないというところ。

 もうひとつは──イデアメリトスの魔法の力を、受け継げなかった子。

 可能性は、常にあったのだ。

 テルの母は、イデアメリトスとは違う魔法の持ち主で、オリフレアの父は魔法の力を持たない。

 いつか、起きるべきことだったのだ。

 母の見立てでは、おそらく後者だろうということだった。

『私の光に、とてもよく似ているわ』

 この子の祖母となる、テルの母の血が色濃く出たのだろう。

『大丈夫よ。この子には、たくさんの味方がいるの……何の心配もいらないわ。この子が産まれるのを強く望んであげて』

 不安でいっぱいのオリフレアを抱いて、母は彼女を慰めた。

「この子は、ヒセと一緒には育てない方がいいわね」

 自分のおなかに手をあてながら、妻がぽつりと言った。

「もし、私がこの子なら、血を受け継いだ姉を恨んでしまうもの」

 ぽつり、ぽつり。

「心配するな……イデアメリトスの名などなくとも、幸せに生きる道は溢れるほどある。味方も腐るほどいる」

 彼女のこめかみに口づけ、腕の中に引き寄せる。

 何も不安などないのだと、毎夜毎夜、彼女に伝えるのだ。

 オリフレアの不安も自責の念も、全部自分に移し替えるように。

「何があろうが、お前と子供たちを守る……愛している」

 男の愛など、自分勝手なものだ。

 だが、夫としての愛、父としての愛は違う。

 テルはようやく──そこへ手をかけることが出来たのだ。