アリスズc


 この国で。

 ハレを見て迷わず剣を抜く人間は、どんな人間か。

 彼は、子供で、非常に髪が長く、幾重にか首に巻きつけている。

 特徴的な姿だ。

 一般市民は、分からなくても──分かる人間が見れば、彼が何者なのか推察できる姿でもあった。

 それを分かった上で、剣を抜くのであれば。

 リリューは、松明を投げ捨てて斬りかかってくる男を、抜きざまに両断した。

 だが、男たちはみな、リリューめがけて突進してきたわけではない。

 左右に散開したのだ。

 いくらリリューとは言え、左右に離れた敵を同時に斬ることは出来ない。

 狙いは、分かっている。

 彼は、すぐさまハレの身を守れるところへと下がった。

 大きな木と自分の間に、ハレとホックスを押し込む。

 これで、彼らが背後から斬りつけられる危険を減らすのだ。

 勿論、一人ではカバーしきれない正面の半分を、モモが受け持ってくれた。

 吸って、吐く。

 複数の人間の、入り乱れる呼吸の中で。

 リリューとモモだけが、ぴたりと一致した呼吸を繰り返す。

 木々の間から、モモめがけて松明の残骸が投げつけられる。

 すぅっ。

 彼女は、それを難なく両断した。

 モモが落ち着いているという事実は、彼を非常に心強くさせてくれる。

 彼女もまた、自分と同じように気配を感じているだろう。

 強い、憎しみの気配。

 木々の向こうに、間違いない『敵』がいるのだ。

「話をしたいのだが」

 背中から、そう囁かれた。

 リリューは、集中を切らさないまま、こう答えた。

「お勧め出来ません」

 既に、彼は一人斬り倒している。

 その死にさえ、他の連中は頓着しなかった。

 相手には、命を捨てる覚悟がある。

 その覚悟には、リリューも覚悟を持って応えなければならなかったのだ。