アリスズc


 従兄の結婚式からしばらくして、桃は太陽妃の招きを受け、コーと一緒に宮殿へと入った。

 太陽妃の執務室では、ホックスとジリアンが熱い議論を戦わせている。

 額を突き合わせ、テーブルの上の板に何かを描きながら。

 猛烈な速度で繰り出される彼女の言葉を、ホックスが短い言葉で蹴散らすと、更に頭に血がのぼった三倍の反論の山が築かれていく。

「ふふふ……ジリアンは、太陽の木の話になると絶対に譲らないのよ」

 そんな二人を横目に、太陽妃は裏庭へと桃たちを案内してくれる。

 そこには、小さな畑や温室、その奥には森があった。

 その森の上に──ソーが飛んでいる。

 放浪気味の夫だったが、無事に彼の子らは育ったという。

「コーがね、もうすぐ子供たちを連れていくの」

 ひんやりする森の中に入りながら、コーは両手を上にあげた。

 さえずる。

 人の言葉を話すのと同じように、鳥の言葉を話すのだ。

 ばさばさと飛んでくる、二羽の美しい鳥。

 長い長い尾羽を垂らしながら、コーの片手ずつに上手に止まった。

「どっちがお母さん?」

 桃は会ったことがないので、そう聞いて見ると、彼女は首を横に振った。

「どっちも子供だよ。お母さんは奥にいる……二羽とも女の子だったの」

 尾長鷲のメスは、森の中でオスを待つ。

 この小さな森は、何羽もの尾長鷲のメスが住むには狭すぎるという。

 それに、ここは人が多すぎて、オスも近づくのが難しい。

 ソーだからこそ、この森の彼女と出会うことが出来たのだ。

 だから、コーはこの二羽を他の森に連れて行こうとした。

 ある貴族の持つ山があるという。

 普通の人間が、勝手に入れないというその山を、数を減らし続ける尾長鷲の繁殖場にしたいと、鳥好きの貴族が申し出たというのだ。

「桃も、一緒に行かない?」

 コーは、嘘をつかなかった。

 あれから、本当にずっと側にいてくれた。

 顔色をうかがうでもなく、慰めるでもなく、いつも一緒にいてくれた白い髪の女性。

「ありがとう、コー……でもいいよ、私はここに残るよ」

 そろそろ。

 目を開けよう。