アリスズc


 リリューの部屋が、二人の部屋となった。

 いまは部屋数も足りないが、そう遠くなく出て行く家である。

 少しくらい不便なくらいで丁度いい。

 レチは、よほど朱の衣装が気に入ったのか、姿見が見える位置に行ったり戻ったり。

 じっくり見たいが、何かが邪魔して出来ないような可愛らしい様子に、ふっと笑みをこぼしてしまう。

 その笑みは、彼が見ていることを相手に教えてしまったようで、こちらを振り向くなり、白い肌を真っ赤に染めて、少し怒った目になる。

「ゆっくり見るといい」

 伯母が、彼女に似合うようにと選んだ美しい衣装だが、晴れ着でもある。

 そう頻繁に、着る機会はないだろう。

「え……いえ……私は別に……」

 決して自惚れているわけではないのだと、彼女は赤くなったまま、たどたどしく言い訳をしようとする。

 そんな彼女の手を握り、引いて行く。

 姿見の前へ、だ。

「濃い色が、よく似合う」

 それが、リリューなりの精いっぱいの褒め言葉だった。

 色が白く髪が灰色なため、色の濃いものならばきっと何色でも彼女に似合うだろう。

 赤でも黒でも緑でも青でも。

 きっと──色の濃いリリューも、レチに合うのではないかと思った。

「あ……ありがとう……」

 彼女の肌の色が、だんだん衣装と同じ色に変わって行くのは不思議なほどだ。

「あなたも……その衣装、とても似合っているわ」

 うつむき加減に褒め返され、正直まいった。

 姿見に映る背の高さが、袴を間延びさせて見せる。

 母とは違い、着られている感の拭えないリリューは、しかし自分の妻の言葉をないがしろにはしなかった。

 馴染むまで着てみるか。

 そう思った。

 感謝の言葉を口にしようとして視線を落とすと、彼女もようやく顔をあげてくれる。

 恥ずかしさのせいか、潤んだ瞳とぶつかってしまって。

 リリューは、言葉以外の唇の使い方を、初めて覚えた。

 姿見に映った二人も──口づけをしていた。