アリスズc


「ここが…道場だったの?」

 何もない更地を見て、レチは言った。

 とても、信じられないように。

「そう…そこが道場で、左の奥の方に伯母とモモの家があった」

 まだ、瓦礫があったのなら信じてもらえたかもしれない。

「じゃあ、またここに新しい道場を建てるのかな」

 それは、彼女の素朴な言葉だったのだろう。

 だが、何故かリリューにはしっくりこなかった。

 うまく言えないが、微妙な違和感があったのだ。

 ここに新しい道場が在るということに、ではない。

 母の道場に、自分がいることに、と言った方がいいのかもしれない。

 母と自分の道が、分かたれたとは思っていない。

 ただ。

 母離れを──親離れをするべき時が近づいているのではないかと、遅ればせながらリリューはそう感じたのだ。

 ここに、レチがいる。

 家庭を築きたいと思った、柔らかくも頑なな女性。

 彼女をこの手で抱きしめ守るためには、父と母につかまっていたこの手を、ついに離す時が来たのかもしれない。

 そう、長いことリリューは彼らに掴まっていた。

 4歳の頃から。

 強くなり、一人で立っている顔をしながら、どこか彼らに指先を残していたところはあった。

 愛に変わりはない。

 だが、リリューの手は両親ではなく、まずこの女性を守るためになければならないのだ。

「新しい道場を…作ろうと思う」

 彼は、慎重に唇を動かしてそう言った。

「ああ、そう…ここに新しいのが出来るのね」

 レチには、うまく伝わっていないようだ。

「一緒に…来て欲しい」

 もっと慎重に、唇を開いてみた。

「……何処に?」

 彼女は──ちっとも分かっていないキョトンとした顔をしていた。