アリスズc


 イーザスとカラディ。

 祖国に忠誠はないが、ユッカスに首ねっこをおさえられていた二人が──ついに反旗を翻したのだ。

 自分の喉元から離れ、落ちた刀を桃は拾った。

 まだ、身体じゅうがバラバラになりそうなくらい痛いが、立つことは出来たし刀を構えることは出来る。

 ただ。

 その必要は、なかった。

 3つのことが起きたのだ。

 1つ目は、イーザス。

 2つ目は、カラディ。

 そして、3つ目は。

「私の都で…無法をしてくれたな」

 満月の夜空から、その声は降って来た。

 姿は、よく見えない。

 しかし、誰かが遥か高いところにいる。

「我が妻をも亡き者にしようとしてくれた礼は…命ではあがなえないぞ」

 声は、ユッカスを縛り上げた。

 イーザスに首を絞められていたことに抵抗していた身体が、石のように固く動かなくなったのだ。

「すぐに兵が来る…そこの二人は…好きにするがいい」

 夜空の声は、異国人の二人を放免してくれるつもりなのか。

「殺さなければ、後にたたる」

 だが、イーザスは抵抗のなくなった男の首から腕を緩めない。

 そんな彼の手の自由は、あっさりと奪われた。

 みな、夜空の人の仕業だろう。

「私の名の元に永遠の虜囚とする…案ずるな」

 その凛とした声に、イーザスは何か毒づいたが、自分の両手が戻ったのを確かめるように一度振ると、梯子を下りていった。

 その後を、カラディが続く。

 こちらを見たのは、分かっていた。

 だが、桃は彼に構っている余裕はなかった。

 空に向けて、彼の人に言わねばならぬことがあったのだ。

 その御方が、誰であるかなど想像するまでもなく分かっている。

 そんな人ならぬ力のある人だから、頼まねばならなかった。

「お願いします、伯母を…山本菊を助けて下さい!」

 夜空に向かって──桃は叫んでいた。