アリスズc


 伯母が。

 桃の目には、それはとてもゆっくりとした動きに映った。

 伯母が、身をひねるようにして桃の方へ飛んだ。

 おかしい。

 より爆弾から遠くに逃げるなら、真後ろに飛ぶべきで。

 どうして自分に覆いかぶさるように飛んでくるのか。

 おかしいよ、伯母さま。

 今までで、一番間近で爆音が炸裂した。

 物凄い風と力に、砂粒のように吹き飛ばされる。

 全身の骨が、バラバラになったんじゃないかと思えるほどの激痛に襲われて、桃はようやく自分が生きていることを知った。

 自分の頭は、屋根からはみ出したところで止まっていた。

 桃の上に伯母が重しのように乗っていなければ、落ちていたかもしれない。

 そう、伯母が。

 あの伯母が。

 ただぐったりと、桃の上に重しになっているだけだったのだ。

「伯母…さま」

 身体中が悲鳴をあげるのに逆らって、桃は起き上がろうとした。

 伯母に触れた手から伝わる、ぬるりとした生温かい感触は、暗がりであっても何なのかくらい分かる。

「全部失うのだよ…物も、命も」

 火が、近づいてくる。

 日本刀は、握っていなかった。

 爆風に襲われた時、どこかへ手放してしまったのだ。

 伯母の刀もない。

「それとも…」

 火をくわえた口が。

 笑った。

 ニィ、と。

「それとも…我の子を産むか?」

 ユッカスが、桃の首に突きつけたのは、日本刀だった。

 暗がりでも、決して見間違わない桃の刀。

「我の子を産ませてくださいと…泣いて赦しを乞え」

 獣の神を信じる残忍な笑みは、桃を逆に冷静にさせてくれた。

 そんなこと。

「そんなこと…太陽が西から昇ったってありえない」