アリスズc


「子どもたちが来たわ…」

 残念そうな太陽妃の声は、桃を立ち上がらせた。

 暗い部屋の中。

 二人とも、今夜は早く休むつもりではなかった。

「ありがとうございます、太陽妃…窓際から離れて物陰へ」

 桃は、窓の外を見たが、どこに子どもがいるのかよく分からない。

 まだ随分遠くよと、太陽妃に言われた。

 夜には目立つ爆弾に使うための火を、うまく隠して来ているのだろう。

 遠いなら、迎え討つにも時間が出来る。

 今日という日に来たということは、桃たちが待ち構えていようがいまいが、どっちでもいいと考えているのか。

 それとも、先日の道場の爆破から今日まで、指折り数えて震えているとでも思っていたのか。

 今日は──満月。

 町からほとんどの人が消え、悪さをするにはもってこいの夜。

 桃は、ただ黙って人のいる部屋のノックをしていく。

 ついに、その日が来たのだと母や伯母、弟、ロジアにテテラ、レチに伝えてゆくのだ。

 最初に出てきたのはエイン。

 真剣を持たない彼の手には、木剣。

 それで十分だという。

 彼ほどの上背と力を持つ男に、木剣を振りおろされては、鈍器という意味で無事に済むはずがない。

 爆弾の性質も、何度も何度もエインが嫌がるほど説明したので、分かってくれているだろう。

 ただ、桃を憂鬱にさせることは。

 相手の多くが── 子どもであるということ。

 大人であるユッカスの仲間は、ロジアの屋敷で彼女らが倒した。

 他にいるかどうかは分からないが、今回彼は自分の子どもらを投入してきたのだ。

 覚悟を決めてくる人間に、年齢は関係ない。

 桃は、そう己に言い聞かせた。

 伯母が出てくる。

 エンチェルクが、守りに残るのだ。

「満月だが…大丈夫か?」

 伯母は、エインに一言だけ聞いた。

 意地の悪い質問だ。

「何の問題もありません」

 暗がりの中の弟の声は── 一瞬、見知らぬ男の声のように感じた。