アリスズc


 夜明け前から騒がしく、桃が慌てて飛び起きると、玄関には伯母とレチが立っていた。

 来ているのは、軍令府の役人と兵士のようだ。

 レチの白い肌は、遠目から見ても分かるほど、真っ青になっている。

「あー…分かった」

 伯母は、短くそう答えて彼らを帰した。

「おはようございます伯母さま…一体何が?」

 階段を駆け下りて玄関へ寄ると、伯母はゆっくりとこちらを振り返った。

「爆発したそうだ」

 この家で、いま一番皆が敏感になる言葉──それが『爆発』

 ユッカスが絡んでいるという証拠の言葉。

「な、何が…?」

 何処が?

 誰が?

 問いを、どの形にすればいいか分からなかった。

 そんな聞き方など、どうでもいいことなのだと、伯母の答えを聞いて理解した。

「……道場と、お前の家だ」

 ────。

 言葉にならないとは、こういう気持ちなのか。

 どんな反応を起こすより先に、桃の頭の中を廻ったのは、記憶をさかのぼれる限り古い思い出。

 母がいて、エンチェルクがいて、伯母がいてリリューがいて。

 門下生たちがいて。

 母に、礼儀作法と勉強を叩きこまれ、木剣を握り、父を恋しがって泣いた、あの家と道場。

「むこうさんの、ご挨拶と言ったところだろう」

 伯母は、ぽんと桃の肩を叩いた。

 そのしっかりした口調と手の感触に、はっとした。

 物は、いつかはなくなるものだ。

 なくなったとしても、もう一度また作ればいい。

 まだ、誰ひとりとして欠けてなどいないのだから。

 桃は、深呼吸した。

 思い出が、消されたわけじゃない。

「お茶、入れましょう…みんな起きてるはずですから。お湯わかしてきます」

 桃の声に、顔を上げたのはレチ。

 まだ青い顔をしていたが。

「お、お湯なら私がわかしてきます」

 仕事が出来てほっとしたように、台所へと消えて行った。