「こんにちは…しばらくお世話になりますね」

 物語は、動き出した。

 エンチェルクは、はっきりとそれを感じた。

 物語の道筋を描いたのは、ヤイク。

 登場人物は、武の賢者宅にいる者たち。

 そこに、あたらしい登場人物が現れた。

「景子さん、ゆっくり滞在していって」

 キクの大らかな歓迎。

 太陽妃が、宮殿から下りてきたのだ。

 しばらく、ここに住まうという。

 何と、恐ろしい決断をしたのか。

 ここは、ユッカスの報復の場所になる可能性がある。

 そんな危険なところに、太陽妃を置くなんて。

「立ってるものは太陽妃でも使うと、みなさんに怒られてしまうかもしれないわね」

 ウメが、小さく微笑む。

「これは国の大事ですもの。それに、宮殿で一番暇なのは、私なんですよ」

 太陽妃は、いつ見ても変らない。

 老いはあっても、あどけない。

 宮殿には、いま二人のイデアメリトスしかおらず、どちらもそこから離れるのは難しいだろう。

 片方は太陽で、もう片方は出産間近。

 だから、代わりに来たのだと。

 そう、あっさりと語ってしまうのだ。

「お茶をお持ちしました」

 大所帯になった部屋に、レチがお茶を運んで来る。

 間違って天の賢者に連れ去られた彼女は、無事帰って来た。

 モモたちのおかげだ。

 そのモモは、エインと壁際で何か話をしている。

「何かあったら父上に顔向けできないでしょ」

「男である私が逃げて安全なところにいた方が、父上に顔向けできない」

 どうやらエインも──数少ない男手として登場人物に加わるようだ。