アリスズc


 都の人々は、出陣の兵士や太陽の子らを見ようと、朝も早くから沿道に人だかりを作っていた。

 桃も、見送りにきた。

 彼女の親戚や友人が多く、戦いに行くのだ。

 顔を見ることは出来ないかもしれないが、見送りたかった。

 兵士の列は、わずかのブレもなく門へ向かっている。

 その歩調を整えるかのような音が、既に桃に届いていた。

 低い音と、少しだけ高い音。

 これだけの大人数のざわめきや足音が入り乱れていてもなお、耳まで届く──白い歌。

 父娘が、歌っているのだ。

 兵士に守られるようにして、深い赤の幌の荷馬車がゆっくりと進む。

 幌の布を通してなお、強い気配のようなものを感じた気がした。

 テルの荷馬車だろうか。

 リリューもそれに乗っているのかもしれない。

 その荷馬車の次に、深い緑の幌の荷馬車が続く。

 歌は、ここから溢れていた。

 ハレの、荷馬車なのは明らかだ。

 歌だけではない。

 荷馬車の上空には、ソーがいた。

 彼も、我が子を置いて戦いへ行くのだ。

「いってらっしゃい!」

 桃は、大きな声で呼びかけた。

 手を振っても、向こうに見えるはずもない。

 でも、手を振らずにはいられなかった。

 しかし、美しい父子の和音が、一瞬だけ音を強めた。

 耳のいい彼らのことだ。

 桃の声を聞き分けることなど、造作もないだろう。

 それに、応えてくれても何ら不思議などないのだ。

 自分にしか分からない、『いってきます』を。

 あんまりに見送りに一生懸命になって、兵士の最後の最後まで見送っていたから。

 桃は、すっかり忘れていた。

「もういいだろう?」

 この見送りに、エインが同行していたことを。