アリスズc


「絶対、私を殺す気でしたよ、あれは…」

 リスは、はぁと深い深いため息をついた。

 そんな彼の受難よりも、桃はイーザスの表情を忘れられなかった。

 義足が作られているのだと聞かされた時の、彼はひどく混乱を見せたのだ。

 その理由は、後に桃がロジアと話をした時に解かれた。

『義手・義足の技術は、あの国にはあってよ。けれど…それはあくまで戦場へ立つ男のためのものに過ぎず、女のために作られることはないわね』

 イーザスは、彼女のために義足を作るという発想が、なかったのだと。

 そんな自分に、おそらくこの時打ちのめされたのだろう。

「やれやれ…二度と彼には会いたくないものですな」

 リスは、道場へ向かう内畑の合間の道を、大きく伸びをした。

「モモ…よかったら、今度一緒に食事でもどうですか?」

 別れの際。

 リスは、軽口を叩いた。

 毎度おなじみの、挨拶のようなものだ。

 だが、その挨拶は、彼の二つ目の受難を引き出した。

 強い視線を感じたのだ。

 あ。

 道場の入口には──エインがいた。

 非常に不快な表情を、こちらに向けているではないか。

「テイタッドレック家の娘に、何の用だ?」

 厳しい一言は、リスをまっすぐに貫く。

 ちょっ。

 いきなり、父の家名を持ち出されるとは思ってなかった桃は、その両目を大きく見開いてしまった。

 リスが、簡単に声をかけたり誘ったりしていい相手ではないのだと、大上段から斬りつけるような真似をしたのだ。

「え? モモ? テイタッドレック家って??」

 リスが、桃とエインを見比べるように焦る。

 地方領主なので、全ての人が家名を知っているわけではないが、貴族の子息然としたエインの髪型を見れば、どういう立場かくらい推察できるだろう

 弟の厳しい視線に追い立てられるうように、リスは去っていってしまった。

「誰にでも父上の名を出すのは、やめてくれないかなあ…」

 困った弟の発言に、吐息をつく。

 エインは、そんな桃の言葉をフン、と鼻先で一蹴するだけだった。

 どうやら、機嫌が悪いようだ。