アリスズc


 帰りは、リスがよく送ってくれた。

 それほど遅い時間にならないように彼の工房を訪れているので、送ってもらうほどのことはない。

 だが、それはどうやら彼の趣味の一環らしいので、桃も取りたてて拒みはしなかった。

 テテラの足に合わせた、ゆっくりとした帰り道。

 リスは、女性を楽しませる話をいくつも持っていて退屈はしなかった。

 だが、今日の彼は二つの受難を味わうこととなる。

 一つ目は。

「…………」

 何だろう。

 桃は、嫌な予感がした。

 殺気だった何かに、見られている気がしたのだ。

 建物と建物の間の細い路地。

 その影になった部分から、それを感じた。

 桃はそこに何がいるのか気づきつつ、足を止めて路地を見た。

「どうしたの?」

 テテラもまた、視線を向けると。

「あら…イーザス」

 殺気など、存在しないかのように彼女はそう呼びかけるのだ。

 出たぁ。

 そんな正直な桃の気持ちが、軽い汗とともに表面化する。

「し、知り合いですか?」

 リスは、一瞬にして身を引いた。

 彼の目から見ても、明らかに危険人物だと分かったようだ。

 そんなイーザスの殺気が向けられていたのは。

 ゆらり。

 路地から出てきた彼は、迷うことなくリスに向かっていたのだ。

「待って、この人に手を出さないで」

 桃は、即座に二人の間に割って入った。

 この男が、どんな誤解を頭の中で巡らせているかなんて知ったことではない。

 だが、彼に手出しをさせるワケにはいかなかった。

「イーザス…この方はね」

 テテラの声が、穏やかに割って入る。

「この方は…私の足を作ってくれているのよ」

 その言葉は、彼の歩みを止めるのに十分すぎる威力を持っていた。