アリスズc


「戦があるそうですね」

 リスは、テテラの足の寸法を確認しながら、そんな話を切り出した。

 彼女に付き添っているのは、桃。

 そして、ここはリスの工房だった。

 数日に一度、彼女はテテラと共にここを訪れるようになっていた。

 母も伯母もいない。

 頼まれたわけではなく、自発的に動くことにしたのだ。

 テテラの足が出来上がり、彼女がその足で歩くのをこの目で見届けると決めた。

「そう、みたいですね…」

 都は、月の一族の討伐戦の話でもちきりだ。

 これだけ民に噂が広がっているということは、おそらく広めた人間がいるということ。

 桃は、わずかながらに心が動いた。

 その戦いには、テルにハレにリリュー。

 更に、トーやコーまでもが行くというのだ。

 国の命運をかけた戦になるだろう。

 だが、桃は行かないと決めた。

 彼らが、どうして負けようか。

 そう信じていたのだ。

 その代わり、彼女には都で出来ることがある。

 テテラの足を完成させ、ハレが計画した学問の町を作る仕事を手伝うのだ。

 母は、もう動いている。

 ハレからヤイクを経由して、母に話が降りてきたのだ。

 そして、今回の戦いに──ヤイクは参加しない。

 テルとハレがいない間に、町の計画を軌道に乗せるため。

「この足が…役に立つこともあるかもしれないわね」

 テテラが、ぽつりと呟いた。

「え?」

 桃は、意味が分からずに彼女を見てしまう。

「前から思っていたのよ。私の足が出来たら、港町の人にも知らせたいって…私の他に、必要としている人がきっといるはずだから」

 あ!

 桃は、雷に打たれたように、瞬間的に理解した。

 身体の一部を失うような大けがを負った人が、あの港町にいた。

 それは、月の一族との戦いでもきっと、起こりうること。

 そんな怪我をした人たちの、ささやかな希望になろうと、テテラは思っているのか。

「男の足を作るって…笑えない冗談ですな」

 リスだけは、おぞましいと言わんばかりに身を震わせたのだった。