アリスズc


「都に行けば、あなたに会えると思ったわ…」

 レチの声は、沈んでいた。

 しかし、その言葉は、雇っている側に向ける丁寧なものとは少し違う。

 彼女は、使用人としてではなく、対等にリリューに語ろうとしている。

「会えて嬉しかった…でも…」

 でも。

 それは、前の言葉の反対のことが溢れてくる前兆の音。

「でも…どうしてすぐあなたは、どこかへ行っちゃうの…」

 レチには、求婚よりも気がかりな言葉があったようだ。

 ああ。

 どうしても、自分の常識で物事を考える。

 リリューにとっての常識のひとつが、母だ。

 自由に出て行くし、自由に帰ってくる。

 人が旅に出ることは、必要に応じてありえることだ、と。

 だが。

 彼女は、閉鎖的な町の生まれだ。

 婚姻以外で、出入りすることはほとんど出来ない町。

 そんな家庭で育ったレチにとっては、男が頻繁に家からいなくなるのは理解しづらいのだろう。

「それに…戦いに行くって…帰ってこないかもしれないってことよね?」

 結婚したところで、リリューが死んでしまったら一人残されることになるのだ。

「いきなり一人になってしまうのなら…最初から一人の方がいい…」

 レチの言葉は、痛々しい音を立てた。

 彼女は、一人だ。

 町を捨て、出てきた時点で一人で生きて行く覚悟は出来ていたのだろう。

 リリューを追ってきてなお、彼の胸には飛びこまず、使用人としての居場所を見つけようとしたのも。

 求婚されてなお、やはり彼の胸に飛び込もうとしないのも。

 その覚悟を突き崩されてしまうことを、恐れているから。

 一人で生きる覚悟を、人と共に生きる覚悟に変えられなければ、この思いは叶わないのだ。

「レチガークアークルムム…」

 世界に1人だけの女性の名を呼ぶ。

 彼は、言葉を変えることにしたのだ。

「戦いが終わったら、私と子を成そう…あなたが一人になる心配が出来ないほど多くの子を」

 リリューは──夫婦ではなく家族という未来を差し出して見せた。