アリスズc


 ロジアは、ヤイクの屋敷に住まうはずだった。

 ていのいい軟禁状態なのだが。

 それを、軽く蹴飛ばしたのは。

「いや、うちの方がいいな」

 キクだった。

「次郎のこともあるし、うちなら何の問題もないだろう?」

 軽い言葉だったが、見事にヤイクへの牽制にもなっている。

 いま、彼女の逃亡を防ぐ材料は、キクの子くらいしかないのだ。

 それと引き換えに、ロジアの監視を緩める気だろう。

 都へ来ることは賛成するが、何もかもまつりごとの思い通りにはしない。

 それが、キクの正義なのか。

「心配するな…エンチェルクも一緒ならいいだろう?」

 思案しているヤイクに、キクはもうひと押しする。

 突然、話の中に自分の名を出され、彼女はどきっとした。

 まるで。

 自分が、ヤイク側の人間だと言われた気がした。

 それは、悪い意味ではなく。

 お前の味方も置いておくから、文句を言うな、と。

 これまで、ウメの味方だった。

 それから、この国の味方になった。

 結果的に──ヤイクの味方になったということでもあるのか。

「分かった…」

 彼は、キクの提案を受け入れた。

 国の都合で彼女を呼び出し、利用することよりも、自発的に協力させ、長い付き合いになる利益を優先したのだ。

 利害でヤイクは選択したのであって。

 エンチェルクが、彼の不利益になることはしない──そう思ったからではないだろう。