アリスズc


 燃え上がる屋敷を、桃は庭の離れた木の下で見ていた。

 井戸の水で、返り血を洗い流したのだが、この屋敷の火のおかげで、すぐに乾いてしまう。

 近くの茂みには、ハチ。

 そして。

 彼女は、木を見上げた。

 木の枝で、バサバサと羽音が鳴る。

 ソーだ。

 伯母は、本当は荷馬車に乗らないはずだった。

 だが、ロジアが次郎を離さなかったのだ。

 赤ん坊には、乳がいる。

 その理由で、伯母は荷馬車に乗ることになった。

 いくら山追の子でも、ひたすらに走る荷馬車を追い続けるのは大変だろうと、ハチは桃に託されたのだ。

 同じく、荷馬車に乗らなかった人がいる。

 リリューだ。

 彼はいま、ヤイクの残した走り書きを持って、兵の詰所へと向かった。

 この事件の、後始末をするために。

 ロジアは。

 ここで死んだことになる。

 巻き込まれて死んだ、憐れな使用人たち。

 彼らの誰かが、ロジアとなるのだ。

 皮肉なことに、彼女を見分ける手掛かりのはずの火傷の跡は、何の意味もなさないほど、全て燃えてしまっただろう。

 町の人たちも。

 家の窓から、ロジアの屋敷が燃えているのを見るのか。

 恐ろしい月に照らされる夜の世界に、飛びだせないまま。

 だが。

 それは、桃の浅い考えだった。

 開けっぱなしの門に。

 炎に照らされ、人影が浮かび上がる。

 一人。

 いや、二人、三人、もっと。

 みなが、茫然と敷地へと入ってくる。

 男ばかりなのは、満月のせいか。

 恐ろしい夜を越えて、彼らはロジアの屋敷を襲った悲劇を、言葉を失ったまま見ている。

 二十年前。

 彼らは、多くを失った。

 そして、今。

 彼らは──ロジアを失ったのだ。