アリスズc


 火が。

 火がひとつ、建物を迂回してくる。

 庭の喧噪に、加勢にきたのか。

 新しい火が、その口元から増やされたのを見て、桃はとにかく後方へと走った。

 距離を取る以外、現時点で有効な手立てがないからだ。

 庭の木の向こう側に隠れた瞬間。

 後方で爆音が響く。

 びりびりと、木も空気全体も、大きな振動を伝えてくる。

 どうにか。

 距離を詰めなければ。

 あれだけの衝撃だ。

 逆に言えば、近距離で使うことは、自殺行為に思えた。

 幸い、ここは広い庭で。

 向こうは火をくわえて、どこにいるか丸分かりだが、こちらは障害物を利用することが出来る。

 桃は。

 木をいくつか経由して──茂みへと飛び込んだ。

 そこで身を伏せると。

 目が。

 合った。

 闇の中、爛々と輝く緑の双眸。

 それは、桃をじっと見ている。

 ああ。

 桃は、そこに潜んでいる生き物が何であるかに気づいて、ほっとする。

 そして。

 はっとする。

 ハチの耳も、ぴんと立った。

「ハチ!!!!!!」

 この生き物を。

 呼んだ人がいた。

 建物の砕けた窓の中。

 ハチは、茂みを飛び出した。

 あっ!!

 一歩遅れて。

 桃も、ハチとは反対方向へと飛び出した。