アリスズc


「ああ、腹が立つ腹が立つ…何助けあってんだ、お前たち?」

 木のジョッキを、机にゴツゴツぶつけながら、カラディが語気を荒くする。

「あいつは、貴族で政治家だぞ? 一般人なんか、所詮駒に過ぎないし、都合が悪くなったら見殺しどころか生贄にだってされるんだぞ?」

 椅子の下で暴れる足が、桃のすねを蹴った。

 黙って蹴り返す。

「あの人が立派な人だなんて、私も言いはしないけど、少なくとも何の肩書きも持たない人間の意見を、政治に反映出来る人よ。あなたの知る政治家が、どんな人間かは知らないけど、勝手にあてはめて言わないで」

 ヤイクは、母の知り合いだ。

 異国人であった母から、その知恵を得るために連れてこられた、貴族の子だったという。

 お互い、まったく違う性質の二人だったが、それぞれの仕事をこなし、この国をより良く変えたのだ。

 彼の否定は、母の否定でもある。

 桃は、それだけは許さなかった。

「お前に、異国人の気持ちが分かるか」

 それが最後の砦とばかりに、ついにカラディが線を踏み越えた。

 自ら、初めて認めた言葉。

 桃は、飲んでもいないジュースのジョッキで、どんと机を叩いた。

「私は、その異国人とやらの子よ」

 一瞬ジョッキから跳ねる、赤紫の液体。

 時が。

 ジョッキから浮いた液体が、空中にある間。

 時が、止まった気がした。

 カラディが信じられない目で、桃を見ている。

「この山本桃、身体に流れる血の半分は、日本国のものよ」

 てやんでぃ、べらぼうめ!

 何故か頭の中に、聞いたことのない響きがよぎった気がした。

 きった大見得の向こうで。

 カラディが、呆然としている。

「おとぎ…話じゃなかったのか。神殿がでっちあげた、太陽妃の…ニホントウなんて、適当な名前をつけられた新しい刀の宣伝をしてるわけじゃ…」

 混乱の言葉の中、桃は彼の目に同種のものを見る色を見出した。

 日本なんて国を、本当に信じていたわけではないというのに。

 会いたかったと。

 言われた。

 気がした。