アリスズc


 何で、こうなった。

 桃は、テテラの家の酒場で、仏頂面になっていた。

「メシが、まずくなるような顔するなよ」

 向かいの席のカラディにだけは、言われたくない。

 大体、伯母は何を考えていたのか。

 おそらくこの男との話に、何らかの興味を覚えたのだろう。

 ロジアでさえ、彼女にとっては警戒すべき相手ではないのだから。

 酒だけは絶対飲まないと宣言した桃の前には、果物のジュースが、カラディの前には穀物酒が。

「まったく、偉いのを連れてきてくれたもんだぜ」

 そんな状態で、彼は本気でいやそうな顔と声でそう呟いた。

 カラディの方が、酒がまずそうな顔をしている。

 ヤイクのことを、言っているのだろう。

 会見の状況は聞いていないが、この男の様子を見る限り、彼らの側には良い結果ではなかったのか。

 桃は飲み物を口につけないまま、彼を見た。

「あなたは、何をしに来たの?」

 ロジアと無関係を装っておけば、疑いの度合いも下がったかもしれない。

 桃が疑っている人間が二人、関係しているところをヤイクに見せれば、それだけで真実だと教えるようなものではないか。

「変人卿とやらを、見てみたかったのさ」

 貴族の情報は、貴族から聞けるからな。

 変人卿。

 すごい言われようだ。

 おそらく、ヤイクのことをよく思っていない貴族から聞いたのだろう。

 確かに、相当風変わりな人らしいが。

「あれは変人というよりは、骨の髄から政治家だ。おまけに、この国のためなんて余計な大儀を、本気で抱えてるんだから目障りだ」

 忌々しい唇。

 自分にないものを、彼はヤイクに見たのだ。

 それが、腹が立ってしょうがないようにしか見えない。

 彼には、強さはあっても大儀はない。

 彼には、故郷はあっても愛国心はない。

 宙ぶらりんの個人としての強さを、ヤイクに打ち砕かれたのか。

「あいつを殺せたら、どんなにすっきりするだろうな」

 酒をあおりながら、カラディはこともなげに言った。

「あなたの首と胴が離れるのと、どっちが早いでしょうね」

 桃も──こともなげに答えた。