アリスズc


「何を…やっている」

 その一言で、真剣勝負は終わった。

 異様な空気に誘われたのか、父が家から出てきたのだ。

 すぐさま、リリューはサダカネを鞘におさめた。

 桃も、鞘を拾ってしまいこむ。

「礼」

 しかし、母は父の登場などなかったかのように、一言でまた片づけるのだ。

 互いに頭を下げ終わったら。

 モモが、へなへなとその場にへたり込んだ。

 すっかり、腰が萎えてしまったのだろう。

「刀は…最初から魂があるものとないものがある」

 彼女は、刀を握りしめていて。

 それに語りかけるかのように、母は微笑むのだ。

「魂のない刀には…お前の魂を吹き込むんだ」

 少しは、あたたまったか?

 言葉に、モモは握りしめている自分の手を見る。

 確認するように、一度握り直す指。

「定兼は…」

 母の視線が、リリューに飛んだ。

 どきりとした。

「定兼は、私が握る前から魂があったからな…一緒に生きろ」

 まだ、しっくりなじまない指。

 母のように、自然に振れない自分を思い知った。

 この刀にとって、まだ自分は他人なのだ。

「あ…」

 へたりこんだまま、モモは母を見上げる。

 ぎゅうっと。

 その手が、強く刀を握り締める。

「あ…ありがとうございました!」

 言葉に、母は微かに笑うと、父の方へと歩いて行く。

「見世物は…終わりだぞ?」

 憮然とした男を、軽やかにかわす一言。

 父は。

 ため息をつくしかなかったようだ。