アリスズc


 ソーがいることが、逆に目印になることもあるのだ。

 桃は、空を軽く見上げた。

 鷲は、少し高度を低める。

 カラディを警戒しているのだろう。

 この男と、話をすることはもうない。

 桃は、そう思っていた。

 だが、この港町で知ったのだ。

 彼が、何者であるかを。

 どうしよう。

 再会することは、想定していなかった。

 しかし、よく考えれば、ここはロジアの影響の強い町。

 この町ほど、彼が自由に動けるところはないだろう。

 頭の中で、引き止めるという心と、近づきたくないという心が交錯する。

「冷たい言葉で、また袖にされるかと思ったが…」

 そのわずかな沈黙さえ、この男にとっては口実なのか。

 桃は、しょうがなくため息をついた。

「あれだけ言われて、何故また私を探したんですか?」

 出来るだけ遠回りに。

 向こうは、20年嘘をつき続けた男だ。

 迂闊な言い方をすれば、すぐに気づかれそうだ。

「あんなに猛烈に冷たい目で、軽蔑されたの初めてだったからな…三日三晩、怒り狂ったぜ」

 ニヤニヤしながら、何ということを言うのか。

 殺気はないが、この後さくっと刺されそうな気がして、桃は反射的に身を引いた。

「それがなー、四日目からは全然怒る気にもなれなくてな…気づいたら、ずーっとエンチェルのことばかり考えるようになってたわけだ」

 ますます、身を引きたくなるようなことを言う。

「あ、まあ、そう警戒しないでくれ。俺は、紳士だよ?」

 もう、三歩下がる。

 このまま下がったら、門を越えてしまいそうだ。

「親戚には会えたのか? さっき見送った男は誰だ?」

 近づきはしないものの、相変わらず口だけはよく回る。

「親戚には会えました。見送りは、単なる知り合いです」

 この、ほんのしばしの会話だけで、桃はどっぷり疲れてしまって。

 彼をかわして帰ろうとした。

 が。

 はたと気づく。

 桃の帰る場所は、ロジアの屋敷。

 彼女とカラディが、通じているという推測が確かならば。

 その上空でソーが飛んでいたら──カラディには、本名がバレてしまうのではないだろうか。