アリスズc


「いろいろな人間がいるものだろう?」

 寝ついた次郎をベッドに戻し、伯母は大きくひとつ伸びをした。

 クージェが、驚きながらも喜び、さっそく帰り支度をすべく去って行った後のこと。

「強い人間と旅に出たからといって、みなが強くなるわけじゃない」

 少なくとも。

「あの男は、『こんな生活をするより、家で真面目に頑張った方がマシ』という結論にたどりついたわけだ」

 はぁ。

 伯母は、高みを目指す人だ。

 だが同時に、周囲の人間の目標には頓着しない人でもある。

 ここまででいい。

 そう考え、満足する人間を無理に引っ張り上げようとはしなかった。

 クージェは、もはや満足したということか。

「到着点は、その人間が決める。どこに線を引くも自由…変えるのも自由。いつだって決めるのは、本人だからな」

「到着点…」

 桃は、視線を落としてしまった。

 その線を、まだ自分は引けていない。

 伯母のような、剣士の高みを目指しているわけではない。

 母のような、まつりごとに携わる方向に進むのだろうか。

 父に会うという短期の目標は、既に到達してしまったが──その先が、まだ何もなかったのだ。

「だが、あの男は…ちゃんと躾られているから、そう心配することはないだろう」

 伯母は、眠る次郎を見た。

「子供を抱いた女に手を上げる気だけは、たとえ帰れなくなろうとも起きなかったようだからな」

 それを聞いて、少しは桃も安心した。

 低いハードルではあるけれども、クージェは多少はまともになったのだ。

「伯母さまがいてくださって、助かりました」

 心の線引きの出来ないままの桃は、複雑な気持ちを抱えながらも、伯母に礼を言った。

「私が邪魔なようなら、すぐに出て行くつもりだったがな…そうではなかったようだ」

 伯母は。

 悪い笑みを浮かべた。

 ええと。

「それは…ないです」

 困りながら答えたら──伯母は愉快そうに笑ったのだった。