アリスズc


 桃は、クージェを部屋の中に招き入れた。

 二人きりならともかく、伯母と次郎もいたので、問題はないと思ったのだ。

 短い髪を、彼はとても恥じているように見える。

 桃のところに訪ねて来ながらも、まともに彼女を見ようとしないのだ。

 ソファを勧めたが、すぐに帰りたげに扉の側に立つ。

「私を、領地に戻すよう…夕日様に進言してもらえないか?」

 彼は、情けない声でそう訴える。

 夕日とリクとの旅路は、クージェにとっては苦痛に満ちたもののようで。

 イエンタラスー夫人宅の、あのぬくぬくとした生活が恋しくてしょうがないのだろう。

 かなり長いこと、彼らと同行している割には、あまり変わっていないように思えた。

「ただ、約束する。領地に戻ったら、もう決して無体なことはしない。真面目に良い領主になるよう努力する」

 答えられずにいると、彼は強い語調で痛切な訴えに変えた。

 ここが、最後の分岐点であるかのように。

 正直。

 桃は、まだ彼は帰らない方がいいと思った。

 学ぶべきものを身につけていない。

 そう、見えたのだ。

 なのに。

「そうか…それなら、私を負かせたら帰ってもいいぞ?」

 伯母が。

 さっくりと、二人の間に割り込んだのだ。

「伯母さま!?」

 驚いた。

 伯母の負けを考えたわけではない。

 クージェでは、負かすどころか対等の勝負も出来ないだろう。

 だが、いま伯母の腕には次郎がいる。

 次郎を守りながらでも戦える人ではあるが、こんなくだらない話で、我が子を危険にさらすのかと思ってしまったのだ。

 クージェの表情は、一瞬明るくなった後──暗く沈んだ。

「出来ません…」

 何の努力もせず、彼は伯母の提案から足をひいた。

 次郎を抱き直しながら、伯母の唇が意地悪げに微笑む。

 そして。

「ああ…それならもう、どこへでも帰っていいぞ。夕日殿には、私から言っておこう」

 あっさりと。

 伯母が許可を出したのだった。