アリスズc


 桃は、黙ってロジア側の端に立っていた。

 リクとクージェは、入口側の端へ。

「ようこそいらっしゃいました。こんな小さな屋敷で、お恥ずかしゅうございます」

 艶やかに微笑みながら、彼女は女主人らしく、美しい挨拶を振りまいた。

 そんなロジアの顔を、夕日はじっと見つめた後。

「町で一番愛されている女の顔を拝まなければ、土産話にもならぬからな」

 非常に失礼な言葉を、堂々と吐いてくださる。

「それは、良いお土産話が出来たでしょう…こんな顔の女ですもの」

 だが。

 ロジアは、ぞっとするほどの微笑みを浮かべながら、閉じた扇の先で、自分の火傷を負った方の髪を、持ち上げて見せるのだ。

 どうぞ、心行くまでこの跡を、見て行って下さいと言わんばかり。

 クージェだけが、その光景から目をそらした。

「いいや…美しい女だ。悪い秘密を持つ女は、とても美しくなるからな」

「領主様との関係のことを、おっしゃっているのかしら? それでしたら、秘密のうちには入りませんわ」

「さあ…どうだろうな」

 桃の胃をちくちくするような攻防戦が、目の間で繰り広げられている。

 普通に話している時とは、何もかもが違う。

 毒の使い方も殴り方も分かった上で、激しい応酬をしているのだ。

「いま…この町の若者が数人、異国へ行っているそうだが…知っているか?」

 次に、夕日が振った話は、思いがけない方向へ飛んで行った。

 彼女が心配しているものとは、真反対の話だったからだ。

「ええ、存じておりましてよ。あの子たちは、より遠くへ行く造船技術を学ぶために、群島国家へ勉強に行きましたの」

 桃は、入ってきた人間ばかりを気にしていた。

 しかし、逆もまたありえるのだ。

「遠くへ行く船か…ロジアとやらは、どこまで行きたいのだ?」

 言葉に、ふっと彼女は小さなため息をついた。

「世界の果てがあるのならば…行ってみたいですわね」

 祖国に帰りたいとは言えないにしても、他の国に行ってみたいという言葉でもなかった。

 世界の果て。

 誰もいない、何もない場所なのだろうか。

 そんなところへ行って──彼女は、どうしたいというのか。