アリスズc


 桃は、自ら先触れとなって、ロジアの部屋のノッカーを鳴らした。

 どちらの味方か、と言われると、彼女はとても困った位置にいる。

 この町の住人はロジア側だが、国にとっては限りなく灰色の部分にいる。

 その判断は、桃には出来ない。

 逆に。

 その判断は、しなくていいと伯母は言った。

 桃の心が信じるままに進めば、それでいいと。

 それは、実はとても難しいことなのだと、彼女はいま痛感している。

 ただ。

 夕日が、どこまでの意図を持って訪問しているかはともかくとして。

 伯母が余り信用していない夕日に、ロジアがひどい目にあわされるのだけは避けたかった。

「夕日様が、来られています」

 招き入れられた桃は、ソファでくつろいでいた彼女に、まず告げる。

 彼女は、怪訝そうに扇をたたんだ。

「何故、モモは夕日様を知っているんですの?」

「前の旅で出会ったことがあって、顔を覚えていただいている程度です…夕日様に興味を持たれているのは…あなたですよ」

 素直に答えればいい。

 桃は、すんなりと息を吐くに任せて、言葉を綴っていく。

「私…?」

「ええ、この町でちょっと話をすれば、必ずあなたの名前が出ますから。それで、居候させてもらっている私に、紹介して欲しいといらっしゃいました」

 ここまでは、ただの事実。

「ふむ…夕日様が、わざわざ訪ねて下さったのだから、お断りをする道理がないわ」

 喜ぶでもなく、恐れるでもなく。

 ロジアは、まるでただの面会のひとつにしか考えていないようだ。

「ひとつ」

 桃は、指を立てた。

 彼女の視線が、その指先に飛ぶ。

「夕日様は…おそらく大変頭がよく、底意地の悪い方です」

 人の悪口をずばっというのは、とても具合が悪い。

 人差し指を挟んで。

 ロジアと桃は、一瞬強く目があった。

 直後。

「をほほほほ!!!」

 弾けるように、彼女は大笑いを始めてしまったのだ。

 桃は──本当に、一生懸命真意を伝えようとしたのに。