アリスズc


 桃は──夕日と向かい合っていた。

「お久しぶりでございます、夕日様」

 まさに夕日が輝かしく差し込み、老人の頭に激しく反射する。

 ツルツルの頭ふたつと、短いチクチク頭がひとつ。

 この国で、こんな頭をしていて目立たないはずがない。

 かくして、彼女は終わりかけの市場で、彼らと遭遇したのだ。

 夕日とリクと──クージェだった。

 イエンタラスー夫人宅の、跡継ぎ。

 まさか、こんな頭にされているとは思わず、桃は最初誰か分からなかったのだ。

 彼も、自分の頭を見られたことが恥ずかしいらしく、よそを向いて決して目を合わそうとはしない。

 髪の毛を刈ったのは。

 この人だろうなあ。

 桃は、クージェに同情しながらも夕日を見るのだ。

「ああ、気にするな。すぐ伸びる」

 視線で、言いたいことに気づいたのか、老人は簡単に言い放った。

 髪を誰よりも大事にするイデアメリトスの元太陽に言われては、反撃も出来ないだろう。

「それより…ロジアという女を知っているか?」

 ずずずいっと、夕日に迫られ、どきっとした。

 この町を、ちょっと探索すれば、彼女の名前など腐るほど聞くことが出来る。

 夕日の興味をそそってしまったか。

「は、はあ…いま、私が厄介にやっているお宅です」

 桃は、あの衝撃的な自分の推理から、立ち直りかけてはいた。

 しかし、まだその話を、本人にはできずにいたのだ。

 知れば知るほど、彼女は『この町』を愛している。

 そう、『この町』を。

 言い方を変えれば──『この国』のためという言葉は、一度たりとも聞いたことがない。

 彼女の忠誠は、この国にはないように思えて。

 そんな彼女に、テルに協力して、他の仲間を裏切ってくれなんて。

 とても言える話ではなく、ずるずると滞在日数だけが延びてしまったのだ。

 そんな最中に。

「そうか…では、案内してもらおうか」

 夕日が、来てしまった。

 できればこの件は、テルにしっかりと説明して、彼に託したかった。

 ロジアを、憎めないからこそ──そうしたかった。