アリスズc


 オリフレアと違って、長く痛みに苦しんだ女がいた。

 彼女の側仕えだ。

 名は──シャンデルデルバータ。

 賢者の遠縁で、ハレの父と旅をした人の一人だと、ヤイクが教えてくれた。

 それ以後、オリフレアの母に雇われ、彼女が産まれてからは、ずっと世話をしてきたという。

 一度の人生の中で、二度も成人の旅につき従った人間は、世界中探しても、おそらく彼女だけだろう。

 シャンデルは外傷がひどく、特に両手や両腕がずたずただった。

 日本刀ほどの切れ味はなくとも、剣なのだ。

 そんなものに、素手でしがみついて無事なはずはない。

 だが、彼女のその命を賭けた頑張りがあったからこそ、リリューが間に合ったのだ。

 テルは、その忠義を汲んで、一生心配のない暮らしをさせると言っていた。

 そのためには、彼女が生き延びなければならない。

 わずかにしか、痛みを和らげない部分麻酔で両腕を縫い合わせられ、長い間高熱と痛みで苦しむ彼女を、ハレとコーは毎日見舞った。

 彼女が歌うと、少しは痛みがやわらいで眠れるようだ。

 キュズの葉を噛めば、もう少し楽にしてやれるのは分かっている。

 しかし、ハレはそれには同意出来なかった。

 常習性のない薬草で作る弱い鎮痛薬と、金の光とコーの歌。

 その三つで、シャンデルは激痛の日々を乗り越えてくれたのだ。

 熱が下がり、まだよどんだ瞳が、ようやく意識を持ってこちらに向けられる。

 そして、彼女は弱弱しい声で言った。

「おひぃさまは…おひぃさまは…ご無事ですか?」

「ああ、彼女もおなかの子も、何もかもすべて無事だよ」

 言葉に、全てを詰め込んだ。

 もう一度、シャンデルが問わずに済むように。

 彼女は。

 弱弱しく微笑んで。

 傷を負ってから初めて──安らかに眠りに落ちていった。