アリスズc


 同じ日、リリューは今度は、ハレに呼び出された。

 エンチェルクが来ていると聞いたが、そのおかげか、何かと慌ただしい日のようだ。

 彼の部屋に行くと、そこには既にホックスと──コーがいた。

 エンチェルクと、一緒に来たのだろうか。

 久しぶりに見る彼女に、何となく懐かしさを覚えた。

 会わない期間など、たった二月ほどだったはずだが、不思議なものだ。

「オリフレアリックシズの屋敷に、先ぶれを送ったところでね。護衛を頼むよ」

 ハレは、いつも通りの穏やかさではあったが、声にわずかな艶を含ませていた。

 コーの訪問を、喜んでいるのだろう。

 都に戻るまで、ハレは好きなことが出来る。

 ただし、その自由は危険と背中合わせでもあった。

 彼はまだ、旅を成功させたわけではないのだ。

 誕生日の来るあとひと月ほどは、不安定な身の上。

 そんな中、イデアメリトスの親族の元を訪問する気らしい。

 温室とやらでも、見に行くのだろう。

 領主が、気を効かせて荷馬車を用意してくれていた。

 これで、安全性は遥かに高まる。

 彼も、旅の間で学んだのだ。

 月の人間は、一般人や領主を襲わないと。

 領主の荷馬車もまた、領主関連と言っていいだろう。

 月の人間が憎んでいるのは、あくまでイデアメリトス、というわけだ。

 ある意味、手段を選んだ潔さがあると、リリューは思う。

 だが。

 ふと。

 彼の意識にひっかかることがあった。

 宮殿に住まないイデアメリトスは、狙いやすいのではないか、と。

 だが、すぐに否定する。

 彼ら個々が、高い魔法の能力を持っているのだ。

 成人の旅の往路ならまだしも、既に魔法の制限が解かれたいま、血を薄めてしまった月たちが、迂闊に手出しなど出来まいと。

 荷馬車の行く先で、ドカンと何かが大きく爆発するような音が聞こえるまで──リリューは一瞬の危惧など、忘れてしまっていたのだった。