アリスズc


 言葉がしゃべれなくとも、ごまかせそうな子供たちを──かの国は送り込んでいたのである。

 大人の中にも、しゃべれない者が何人かいたという部分も怪しい。

 あの襲撃の悲劇を、全て隠れ蓑にしきって、20年という月日を、彼らは乗りきったのである。

 皮肉なことに、あの事件の被害者である女性が、彼らにこの国の言葉を教えたというのだ。

 そして。

 ロジアは、領主の愛人となった。

 飛脚問屋の女主人でもある。

 金と権力と情報。

 この町で、彼女は握りきった。

 更に、港町にいれば、何らかの形で異国の人間と情報のやり取りも可能である。

 これほど、異国の勢力にとって好都合なことはない。

 それから──カラディ。

 彼は、植物と動物の調査をしていると言った。

 調査という名の元に、国中を回るのが仕事だろうか。

 勿論、この国の植物・動物のことも、有用な情報にはなるだろう。

 だがしかし、政治体制や国や町や村の様子、兵の配置なども、頭に入れているに違いない。

 他の4人の子供たちも、生きているのならば、この国で何かの仕事をしているだろう。

 そして。

 その中の誰かが。

 イデアメリトスの反逆者の、背中を押した可能性もある。

 金なら、ここにあるではないか。

 今更。

 今更、この屋敷の主人が敵なのだと、思わなければならないのだ。

 浮かれていて、火傷を負ったというロジア。

 この町が、悲劇の真っ只中にあった時、彼女は虫として放り出され──その事実を、喜んだのだろうか。

「こら」

 こちんと、桃の頭は次郎の手で叩かれた。

 伯母だ。

 赤ん坊の小さな手を、勝手に彼女が使ったのだ。

「他の連中は知らんが、ロジアなら何とかなるだろう。あいつが、この町を好きなことは間違いないからな」

 真芯の美学を貫いた女性が、桃の目の前にいる。

 どこの国の生まれかなど、伯母には産毛を揺らす風にさえなりはしない。

 事実の向こう側に、彼女──山本菊は、堂々と立っているのだ。