アリスズc


「ひどい顔をしているぞ…」

 伯母は、桃の顔を一目見るなり、嫌な表情を浮かべた。

 そうだろう。

 ひどい顔をしていることくらい、自分でも分かっている。

「伯母さま」

 そして。

 伯母ならば、分かっているのではないかとも思った。

「伯母さまは…知っていたのですか?」

 猛烈な疲れに耐え切れず、桃はベッドの端へと座り込んだ。

 過酷な旅路であったとしても、これほどまでに桃を疲れさせることは難しいだろう。

「ロジアさんが…異国の人間かもしれないってことを」

 一瞬だけ。

 時が、止まった。

 その時は、伯母が目を細めることで動き出す。

「どこの国の人間かということは、考えたことはない…何か、訓練を受けた人間だろうということは分かっていたが」

 声に、嫌悪はない。

 あるはずがない。

 もしも、嫌悪があったのならば、伯母がこれほどまで長く、ここに厄介になっているはずがないのだ。

 個人的な好悪は別として、彼女の言葉は、桃の推測を裏付けたことだけは間違いなかった。

「ロジア、イーザス、ラベオリ、ユッカス、ヘリア、カラディ」

 桃は、指を折りながら、あの女性に教えてもらった名前を挙げた。

 全員ではない。

 その中の、6人。

 彼女が、疑ったのがその6人だ。

 疑う理由など、たった一つ。

 名前の長さ。

 カラディもロジアも、最初から自分の名を短く呼ぶように言ったではないか。

『そこまで』が、本当の彼らの名前なのだ。

 言葉がしゃべれなかった?

 記憶もあやふや?

 では何故、自分の名前を名乗れたのか?

 この国の人間が、便宜上名づけるのならば、決してこんな短い名前などつけるはずがないのだから。

 何故、言葉がしゃべれなかったのか?

 それは──この国の言葉を、まったく知らなかったからだ。