アリスズc


「あの時…私とロジア様は、同じところで寝ていたのよ」

 女性は、話をしてくれた。

 静かに、ゆっくりと、しかし──自分の心を少しずつすりつぶすように。

「ロジア様は、私より少し小さな子供だったわ。火傷もひどかったけど、余りのことに彼女は、何もしゃべれなくなっていたの」

 かける言葉にもうまく反応できず、記憶もあやふやで、とてもかわいそうだったと、彼女は言う。

「そういう子が、他にもいたわ。大人にも、何人かいたみたい」

 そして、領主が国の後押しを受け、救済に動き出した。

「大人は、町の復旧で忙しかったから、動けない私が、その子たちに寺子屋まがいで言葉を思い出させようとしたのよ」

 たどたどしく、ロジアが『おねえちゃん、ありがとう』と言った時は、片足を失いながらも生きた甲斐があったと、女性は言う。

 桃は、黙って話を聞き続けていた。

 ひととおりの彼女の話が終わった後。

「その時に、教えた子たちの…名前は覚えていますか?」

 静かに、問いかける。

「ええ、忘れてなんかいないわ。ロジア、イーザス、ラベオリ、トッセンメイヤルーエン、エルメアオルニアンテリウ、ユッカス、ヘリア、アインロデリアーチス、カラディ…子供ばかり9人よ」

 懐かしみながら、名を連ねる。

 その中に──カラディが入っていた。

 ああ。

 嗚呼。

 そうか。

『それ』が、違和感だったのだ。

 桃は、噛み締めた。

 彼女は、よろけそうになる足に力を込め、女性に礼を述べ、家を出た。

 酒場から、楽しげで騒がしい声が聞こえてくるが、もう一度入る気にはなれなかった。

 明日が満月だよと輝く、丸に近い月に照らされながら。

 桃は、頭を打ち振りながら、ロジアの屋敷へと帰っていったのだった。