アリスズc


「だぁれ?」

 薄暗い部屋から、声がする。

 酒場の裏の家。

「俺だよ、姉ちゃん。客を連れてきた」

 そこの一室に、桃は背中を押されて入る。

「一番上の姉ちゃんだ…ゆっくり話が出来んの、姉ちゃんくらいだから」

 そして。

 青年は、彼女を置いて酒場へと戻っていってしまった。

「あ、あの…桃と言います」

 明かりもつけずに、ベッドに腰掛けている女性に、戸惑いながらも名前を告げる。

「まあ、まるでロジア様みたいに、短い名前を名乗るのね」

 微笑みは、余り力はない。

 しかし、彼女もまた、ロジアを敬愛しているようだ。

「私は、余り機敏に動けないのだけれど、孤児院のお世話をする仕事をしているの」

 次第に、目が慣れてくる。

 ベッドの側にあるのは、松葉杖だろうか。

 足が悪いようだ。

 いや。

 そうではない。

 片方の足が──途中からなかった。

 この人に。

 20年前の話を聞けと。

 あの青年は、言うのだ。

 それほどの覚悟があるなら、聞いてみろと。

 そう、言われているのだ。

 真剣では、足りない真実。

 それに、手を突っ込むのは、生半可なことではないのだと、自分に突きつけられている。

 息を、大きくひとつ吸う。

 テルのことを、思い出す。

 彼が、二十年前のことを知ろうとしているのは。

 同じ悲劇を、繰り返さないため。

 目の前の女性と、同じ人を作らないため。

 その芯が、ちゃんと中心を通っていれば。

 それはきっと──覚悟になる。