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桃は、一人で港町を歩いていた。
ロジアの荷馬車を下ろしてもらい、散策していくことにしたのだ。
テルに頼まれた仕事を、こなすためにも。
公式の情報であれば、何らかの形で彼に届く。
桃に願われているのは、それでは分からない市井の情報だった。
町の人に、二十年前の話を、いきなりするわけにはいかない。
あの事件は、この町における最大の傷なのだと、伯母が教えてくれた。
安泰だった国に、400年ぶりに外部から大きな傷が入ったのだ。
町の人に少しずつ遠まわしに話を聞き、そして夜の酒場に行こうと、今日の予定を決める。
酔っ払いの口は、軽くすべるのだと。
これもまた、伯母が教えてくれた。
ただ、港町の酔っ払いは、内陸よりは少々荒っぽいとも。
多少の危険があると知っていながらも言うのは、自分で何とか出来るだろうと信頼されているから。
伯母に認められると、やはり嬉しい桃だった。
まずは、昼の町。
旅人として、この町の話を聞く。
海の話、魚の話、時折来る群島の国の人たちの話。
そして──ロジアの話。
「ロジア様は、それは本当に町のために良いことをしてくださるんですよ」
寺子屋のほかに、孤児院を運営し、体術の師範を雇い道場も開いているという。
若者の就職の斡旋もするし、神殿への寄付も欠かさない。
個人的な船を所有し、群島の人たちとささやかながらに貿易の道を築いている。
近々、造船所を作ろうと考えているという。
この町の若者の大半は、どこかしらでロジアの世話になっているようだ。
皆が、目を憧れに輝かせ「ロジア様」「ロジア様」と語る。
そんな中。
「ああ…お可哀想に、ロジア様」
一人の老女が、桃の前でため息をついた。
「あの御方は、どんなに皆に愛されても、満たされない顔をなさいます」
老女の話は──たった8年遡るだけでいい。
桃は、一人で港町を歩いていた。
ロジアの荷馬車を下ろしてもらい、散策していくことにしたのだ。
テルに頼まれた仕事を、こなすためにも。
公式の情報であれば、何らかの形で彼に届く。
桃に願われているのは、それでは分からない市井の情報だった。
町の人に、二十年前の話を、いきなりするわけにはいかない。
あの事件は、この町における最大の傷なのだと、伯母が教えてくれた。
安泰だった国に、400年ぶりに外部から大きな傷が入ったのだ。
町の人に少しずつ遠まわしに話を聞き、そして夜の酒場に行こうと、今日の予定を決める。
酔っ払いの口は、軽くすべるのだと。
これもまた、伯母が教えてくれた。
ただ、港町の酔っ払いは、内陸よりは少々荒っぽいとも。
多少の危険があると知っていながらも言うのは、自分で何とか出来るだろうと信頼されているから。
伯母に認められると、やはり嬉しい桃だった。
まずは、昼の町。
旅人として、この町の話を聞く。
海の話、魚の話、時折来る群島の国の人たちの話。
そして──ロジアの話。
「ロジア様は、それは本当に町のために良いことをしてくださるんですよ」
寺子屋のほかに、孤児院を運営し、体術の師範を雇い道場も開いているという。
若者の就職の斡旋もするし、神殿への寄付も欠かさない。
個人的な船を所有し、群島の人たちとささやかながらに貿易の道を築いている。
近々、造船所を作ろうと考えているという。
この町の若者の大半は、どこかしらでロジアの世話になっているようだ。
皆が、目を憧れに輝かせ「ロジア様」「ロジア様」と語る。
そんな中。
「ああ…お可哀想に、ロジア様」
一人の老女が、桃の前でため息をついた。
「あの御方は、どんなに皆に愛されても、満たされない顔をなさいます」
老女の話は──たった8年遡るだけでいい。


