アリスズc


 翌日、ロジアは桃を町へと連れ出した。

 荷馬車が最初にとまったのは、飛脚問屋の建物。

 彼女の所有する店だろうか。

 しかし、ロジアはそのまま店の裏へと進んで行く。

 慌てて桃が後を追うと。

「ロジア様!」

 わっと。

 子供たちが駆け寄ってきた。

 そこは、店の裏の庭。

 大きな布張りの屋根がつけられた下には、たくさんの机が並んでいる。

 板書用の板に、どこからか持ち込まれた本。

 ここは──寺子屋なのだ。

「ロジア様、おはようございます」

 若い青年が、本を片手に近づいてくる。

「ほらほら、勉強をしなさいな…時間はいつだって足りはしないのだから」

 小さい子たちを机へと戻しながら、ロジアは青年へと向き直る。

「お給金はいらないので、是非僕を飛脚問屋で勉強させてください」

 熱意溢れる、そして彼女への敬愛の溢れる目で、青年は訴える。

 その額を、ロジアは閉じた扇子の先で、ペチと打った。

「お金がいらぬ勉強をしたいというのなら、旅にお出なさいな。自分とこの町のために、何が一番より良いか、世界を見て、よく考えていらっしゃい」

 青年がすごすごと帰る背中を見送った後、ロジアは桃の方を振り返った。

「私の子供たちですわ…大抵が、商人か役人になる子たちでしょう」

 誇らしげではあるが、やはり少し悲しげだ。

 この子たちからの贈り物が、居間に飾ってあったカオスなものなのだろう。

 ロジアには、血を分けた子はないようで。

 その愛情が、この寺子屋に注がれているのだろうか。

「ロジア様」

 荷馬車で気づいたのか、次々と男女問わず、青年少年少女老人大人と、寺子屋へと足を運び、彼女に挨拶をしていく。

 桃は、彼女を見ていた。

 そして、思った。

 彼女こそが、まるで──この町の愛される領主のようだった。