アリスズc


「ハチ」

 庭に出た伯母が、遠い声を出した。

 何かを呼ぶ声。

 ガサガサと、茂みが揺れたかと思うと。

 足をひきずった、四足の生き物が現れる。

 桃は、初めて見るその生き物を、首をかしげてみていた。

 茶色くて、耳がとんがっていて、顔が長い。

 しっぽも長く、ふさふさした動物だ。

「山越えをしていた時に、狩人にもらった。狩猟に使う山追(やまおい)という動物らしい」

 まだ子供らしく、小さくあどけないその生き物は、可愛らしく見えるが、とても賢いのが分かる。

「この山追は、事故で前足を折っていてな。狩猟に使えないからと、処分されるところをもらいうけた…次郎の、いい友達になるだろう」

 ハッハッ。

 伯母にすっかりなついているようで、息を弾ませながらも、ハチはちょこんと腰を下ろして彼女の反応を待っている。

 妊婦が、山越え。

 桃は、もはや突っ込む気も起きなくて、ハチに向かって微笑むしか出来なかった。

「足はこうだが、人よりも十分速く走ることは出来る」

 伯母は、落ちている小さな木の枝を取り上げ、一度ハチに見せると、遠くに向かって投げた。

 ヒャンッ!

 奇妙な鳴き声をひとつあげて、ハチはすっ飛んでいく。

 口に、枝をくわえて帰ってきたのは、それからすぐのこと。

 ちぎれんばかりにしっぽを振り、自分の頑張りを見せ付けるのだ。

 か、かわいい。

 桃は、そのハチの姿に、メロメロになってしまいそうだった。

「帰りは、随分人数が増えるな。私と桃と、次郎とハチ」

 苦笑ぎみに語る伯母に。

「もう一人…ソーさんがいます」

 桃は、明るく空を指して見せたのだった。

 ピューイ!

 彼は、空で大きく輪を描いていた。