アリスズc


「ロジアは、ここの領主の愛人だ」

 ブーーーッ。

 伯母の何気ない一言に、桃は出されたお茶を噴き出した。

 この町のこと、二十年前の事件。

 伯母に聞きたいことは色々あるが、まず彼女が最初に話し始めたのは、妖艶なこの屋敷の女主人のこと。

「既に領主の奥方は亡くなっている。身分の関係上、愛人という立場になっているだけだ」

 未婚の桃には難しい話が、ひらりはらりと上から舞い落ちてゆく。

 次郎は、おなかいっぱいになって満足したのか、小さなベッドでぐっすりと眠り始めていた。

「あの事件の慈善事業で、領主はロジアを見出したようだ」

 二十年前の事件で、孤児になったロジアは、一時的に国に保護されたという。

 この国の太陽は、あの事件を国難と考え、その被害者であるこの町に、手厚い加護を行ったのだ。

 国の保護と言っても、実際にまつりごとの指揮を取るのは領主になる。

 その時、ロジアの素晴らしい才能に、目がかけられた。

 彼女はとても頭がよく、それが気に入られたというのだ。

 領主が目をかけると、彼女はその能力をめきめきと伸ばしていった。

 特に、商才に秀で、自ら飛脚問屋を経営するほどになる。

 そして。

 彼女は、領主に愛された。

 あの火傷の跡があったとしても、それ以上にロジアは魅力的だったのだろう。

 いまもなお、領主の愛を受けながらも、彼女はこの町の豪商として働いているというのだ。

 それが、ここの女主人の略歴。

「はぁ…」

 同じ女でありながら、その壮大な人生は、桃の想像を凌駕している。

 都でさえ、商人の妻はいるが、女の商人などほとんど見ることが出来ないというのに。

「ここには、時々奇妙な商人も来る…私はもうしばらく滞在することにするから、好きにするといい」

 伯母は。

 都への帰還を、桃の仕事の後にしてくれるようだ。

「ありがとう、伯母さま」

 礼を言うと。

 伯母は、いままで見たことのない笑みを浮かべた。

 あれが──母の笑みだろうか。